8.15.2011

更新情報
加藤陽子「歴史 この不思議な学問に魅せられて」 後編1 歴史は「戦史」から始まった 8/15 UP

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加藤陽子「歴史 この不思議な学問に魅せられて」 前編1 前編2
加藤陽子「この夏に読んでほしい一冊」 死者の彼岸からの視点で、世界を眺め直してみる
末井昭「自殺」 第1回 第2回 第3回 第4回
國分功一郎「暇と退屈の倫理学」 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回
吉川浩満「理不尽な進化」 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回
大澤真幸「時評」
1. 浜岡問題の隠喩的な拡張力
2. 福島第一原発の現場労働者を支援しよう
3. 想定外のリスクをいかにして想定するか
──原発の安全ための最小限の提案

4. 原発問題と四つの倫理学的例題
5. ドクター・ショッピングと原発情報
大澤真幸「社会は絶えず夢を見ている」 あとがき
中川恵一「放射線のひみつ」 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回
第6回 第7回 第8回 第9回 第10回
山本貴光「ブックガイド――書物の海のアルゴノート」 第1回 第2回

加藤陽子
絵・題字 牧野伊三夫
母校・桜蔭学園での講演記録 後編1
歴史という言葉が初めて使われたのは、紀元前5世紀のことでした。そしてそこには「戦争」が関わっているのです。紀元前に生きた人たちは、どんなふうに戦争を書きのこしていたのか。今日は終戦記念日ですが、ぐるるっと2500年以上前までさかのぼり、戦争の根本について思いをめぐらせてみたいと思います。(編集部)

歴史は「戦史」から始まった

みなさんが勉強している歴史という学問にも、もちろん“始まり”があります。その起源はどこにあるかというと、戦争にある――「歴史は戦史から始まった」といえるのではないか、こう私は考えています。なぜそういえるのか。紀元前5世紀の古代ギリシアまでさかのぼってお話ししましょう。

ピューリッツァー賞を受賞するような作家がベトナム戦争を描くように、あるいは、その逆で、ベトナム戦争を描いてピューリッツァー賞を受賞するように、アメリカの国家と社会に深刻な亀裂を生んだベトナム戦争は、多くの優れた作家の心を捉えました。感性の優れた人々は、まさに起こっている真っ最中の出来事であっても、何をどのように捉えるべきか、鋭い視覚を提示し、後々に残してくれるものです。

この話からも推測がつくように、紀元前5世紀の人たちも、きちんと同時代の戦争に目を向けていました。

みなさんも古文の授業で、『源氏物語』に接したことがあるでしょう。1001年には成立していたと考えられている、この『源氏物語』を読みますと、「千年以上も前に書かれているのに、なぜ今の自分たちの恋愛感情や季節への感覚と同じなのだろうか」と驚くのではないでしょうか。人間の底にある精神や感情はあまり変わらないということは、古典文学を読むと確認できますね。

人間は歴史をどのように記述しはじめたのか、歴史学に大きな影響を与えた2人の鉄人を紹介しながら、彼らが目の前で起きた戦争をどう考え、どのように記述したかを見ていきましょう。

8.03.2011


過去に起きた歴史的事象の意味が、全く異なった、新たな相貌をたたえて、急に自らに迫ってくることがあると、最近、身にしみてわかった。東日本大震災で発生した、東京電力福島第一原子力発電所における原子力災害の深刻さが、ヒロシマ・ナガサキの意味していたものについて、じわりと私に再考を迫るようになってきたのだ。

ヒロシマ・ナガサキを考えるとき、歴史家としての私はこれまで、日本のおこなった不徳義とアメリカのおこなった不徳義について、どうしても貸借対照表のようなかたちで比較する見方から離れられなかった。しかし、それはどうも違うのではないか。